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エストニアはいかにして電子・ブロックチェーン先進国家となったのか。歴史と特徴まとめてみた

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国家レベルでブロックチェーン技術の社会実装を進めている電子先進国エストニア
今でこそSkypeが世界的なサービスとなり、電子国家としての市民権を得ているエストニアですが、「エストニアは、いつからIT立国化したのか?」という問いにはっきりと答えられる人は少ないのではないでしょうか。今回はそんな知られざるエストニアの電子先進国への変貌の歴史をまとめてみました。


エストニアの基本情報


まずは、エストニアの基本情報です。


【面積】4.5万平方キロメートル(日本の約9分の1)
【人口】約132万人(埼玉県さいたま市の人口は126万人程度)
【首都】タリン
【主要産業】製造業、卸売・小売、不動産、運輸、建設等。製造業は、主に機械、木材、製紙、家具、食品、金属、化学等が中心。IT等のイノベーション産業の誘致・育成を積極的に進めている。
【一人当り名目GDP】15945ユーロ = 213万円程度(2016年:IMF推定。ちなみに日本は423万円程度)
【在留邦人】130人(2016年10月大使館)
【訪問者数】日本→エストニア 99,335人(2016年、エストニア中央銀行)
(参考:http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/estonia/data.html


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(画像:GoogleMapより作成)


バルト3国の1国であるエストニア。人口が埼玉県さいたま市の人口程度しかいないこともあり、2016年時点の名目GDPは、191ヶ国中で102位という程度の経済規模になっています。面積も日本の1/9程度しかなく、ちょうど九州地方(4.2万平方キロメートル)と同じ程度の国土面積となっています。経済的には北欧系資本の投資が盛んで、金融や保険の分野では外国資本が大半を占めています。政府の方針は開放的かつ自由経済を促進していて、政府手続き・文書閲覧などがインターネット上で完結できることが多く、近年、国産ITスタートアップのエコシステムが盛り上がってきています。


エストニアの歴史

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(画像:http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000454.pdf


上記画像のように矢継ぎ早に電子国家となるための施策を導入していったエストニア。同国が電子国家となるまでにどのような出来事があったのかを時系列で見ていきます。


1991年:ソビエトからの独立。資源もインフラもサービスも何もないところからのスタート


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(画像:http://every-day-is-special.blogspot.jp/2016/08/august-20-restoration-of-independence.html


エストニアは1991年8月20日、ソビエトからの独立を果たしました。独立当時のエストニアには、銀行や電話通信など基本的なインフラもほとんどない状態であり、残されていた突破口は以下のものしかありませんでした。


・旧ソ連のサイバネティクス研究所(現Cybernetica)がタリン市内にあったため、優秀な技術者がいたこと
・資源がない裏返しとして、既得権益がほとんど存在しなかったこと


f:id:virtual-surfer:20180210130627j:plain (画像:https://www.ioc.ee/wiki/doku.php?id=en:start
ttü küberneetika instituut(サイバネティクス研究所)


以上の突破口を元に官民協力して国としてのあるべき姿を描き、ゼロから電子立国化に向けての歩みを始めました。


2000年~2005年:電子国家としての各種制度の開始と世界的IT企業の誕生


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(画像:https://www.finance-monthly.com/2017/11/estonia-2017-e-residency-applications-exceed-domestic-birthrate/


IT立国としての歩みを始めた同国は各種制度を開始させていきます。


・e-Tax(2000年):それまで数カ月かかっていた還付金の振り込みが、e-Tax(オンラインでの税申告)を利用することで3~5営業日で行われるように。(ただし、開始後3年ほどは30%程度の利用率で普及に伸び悩みます。)


・e-Education:小学1年生からプログラミングの授業が取り入れられ、重点的にデジタル化されました。教師が独自にカスタマイズできる教材を提供するe-Learningや、生徒の成績・宿題・出欠情報を集積するデータベースで、学校と生徒と保護者の3者がいつでもチェックできるe-Schoolというシステムも導入しました。


・電子IDカードの導入(2002年):15歳以上の全国民に対して、国のサービスを利用するための電子IDカードの所有を義務化した。IDカードは、2つのPINコードと電子チップを持っている。1つ目のPINコードは個人を識別するためのもので、2つ目のコードは各種サービスを利用するときの認証に使われる。これによって、銀行や医者の手術、行政サービスなどの手続きが簡素化される素地が生まれました。


X-Roadの導入:X-Roadはアプリケーション開発のプラットフォームとして機能し、国の物理的サービスを比較的容易に電子環境に拡張することができるため、民間企業などがX-Roadに参加することで、容易に国のサービスと自社サービスを組み合わせることができるという点で、Country As a Serviceのような仕組みになっています。X-Roadの仕組みでは、データを各レポジトリから時間的なロス無しにアクセスすることができ、システムとしてのセキュリティを担保するために、複数の認証を必要とし、通信を暗号化し、ログを残してアクセスを追跡できるように設計されています。このX-Roadという仕組みに多くのサービスとデータが組み込まれていくことで、エンドユーザーである国民は、電子IDカードを持っているだけで様々なサービスを利用できるようになっていきます。


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(画像:http://pubdocs.worldbank.org/en/165711456838073531/WDR16-BP-Estonian-eGov-ecosystem-Vassil.pdf


・Skype設立(2003年8月):今や世界的な企業となっているSkypeが設立されました。当初は通話だけの機能を持ったプロダクトをリリース。(のちに2006年1月には、Skypeビデオ通話を開始。2011年10月にはMicrosoftと統合、そして、今や1ヶ月のSkypeユーザーが2億5000万人を超えるまでに成長しています。)


・EU加盟(2004年):EUに加盟し、ユーロ経済圏に入りました。


・オンライン投票開始(2005年):2005年には、世界に先駆けてオンライン投票(地方選挙)の実現を果たしました。ここでも先述の電子IDカードが活用されており、投票者はインターネット接続できる専用のカードリーダー機器を使って自分のIDカードを認証し、投票用のアプリケーション上で投票を行うという仕組みになっている。公開鍵方式のような仕組みを使っていて、個人情報が紐付いていない投票データのみを開票するようになっています。


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(画像:http://pubdocs.worldbank.org/en/165711456838073531/WDR16-BP-Estonian-eGov-ecosystem-Vassil.pdf


小国で資源を持たないエストニアが電子国家として歩み始めるための制度が、2000年代当初に次々と開始されていったことがわかります。


2006年~2013年:制度の普及と電子国家としての仕組み構築


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(画像:http://pubdocs.worldbank.org/en/165711456838073531/WDR16-BP-Estonian-eGov-ecosystem-Vassil.pdfhttps://estonia.ee/e-residency-estonias-most-scalable-idea/


エストニアにおけるブロックチェーン導入に深く関わっているサイバーセキュリティ企業のGuardtimeも2006年に設立されるなど、この時期は今まで進めてきた制度が一気に普及していく時期となりました。今でこそブロックチェーンという技術と仕組みは市民権を獲得し始めていますが、当時はまだ「ブロックチェーン」という呼び名が全く浸透していなかった頃。Guardtimeはその当時から「データの完全性を証明できるキーレス署名技術」を提供する企業として注目を集めていました。同社は、Keyless SignatureInfrastructure(KSI)という機密ファイルの暗号化技術を、政府および公的機関に提供しました。


2007年には、ロシアとの政治的な緊張関係が強まる中で、国外からの自国Webサイト・銀行などの基幹システムへのサイバー攻撃が急激に増加し、一時的に国外とのインターネット接続を切断する事態に追い込まれました。これを契機として、セキュリティ強化の優先度が一気に高まり、国家レベルとしては世界初のブロックチェーン導入が進んでいくことに。ブロックチェーン技術を使うことで、データそのものが改ざんされない、より強固なセキュリティシステムを構築することを国レベルでの推進を始めました。


2010年前後には、これまでの電子国家への歩みの成果が徐々に確実に出てきます。X-Rodeのサービス利用者とデータ提供者は、2003年に40前後だったのが、2015年には1600程度のサービス数になっており、エンドユーザーの数も爆発的に増加しています。


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(画像:http://pubdocs.worldbank.org/en/165711456838073531/WDR16-BP-Estonian-eGov-ecosystem-Vassil.pdf


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(画像:http://pubdocs.worldbank.org/en/165711456838073531/WDR16-BP-Estonian-eGov-ecosystem-Vassil.pdf


また、先述したe-Taxによる効果も出始めます。利用率が90%以上となった結果、納税者の時間が節約されただけでなく、膨大な申告書類の処理業務から解放された税務署員の勤務時間も約7万5,000時間節約されたと報告されるようになります。


2014年~2018年:電子国家としての実績と地位確立。そしてStartupエコシステムの萌芽


2014年にエストニアは電子国家としての歩みをさらに加速させます。「e-residency」という制度によって、エストニアの会社をオンラインで設立し、エストニアの銀行業務や支払い処理サービスにアクセスできるようにしました。2014年末に同プログラムが開始されて以来、今までに17,000人の新規e-residencyが生まれ、約1,500の新会社が立ち上げられているようです。


そして同国では、Startupエコシステムが循環し始め、多くのStartupが生まれ始めます。次世代型人材マッチングプラットフォーム「Jobbatical」や、ブロックチェーン活用で情報と資金の流動化を目指す「Funderbeam」、Uberのエストニア版のようなライドシェアサービスを展開する「Taxify」、小売ソフトウェアシステムを提供する「Erply」など、多種多様なテックリードStartupが生まれてきています。


そして、仮想通貨市場の盛り上がり、ブロックチェーン技術の認知度が市民権を獲得していくにつれて、日本の起業家・投資家からの注目も増え始め、エストニアに対しての注目度も高まりを見せ始めます。



エストニア電子政府の仕組みを福岡で導入 孫泰蔵氏が支援するプロジェクト本格始動
(引用:https://www.businessinsider.jp/post-34531


さらに同国は、2017年8月にestcoinと呼ばれるブロックチェーンをベースとした仮想通貨の導入を検討していることを公表し、仮想通貨投資をしている層からの注目も集めました。すでにX-Roadによって行政・国民・企業のデータが集約されていることを考えると、そのシステムに決済を結びつけることでさらに生活を簡便にしていくことができれば、新しい国家の仕組みのモデルとなるのではないでしょうか。今後の動向から目が離せません。


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(画像:https://e-resident.gov.ee/estcoin


また2018年1月12日には、安倍首相がエストニアを訪問し、ユリ・ラタス首相との会談が行われました。


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(画像:http://www.sankei.com/photo/story/news/180113/sty1801130002-n1.html


エストニアはサイバー分野での取組が進んでおり,これを踏まえ,両首脳は,サイバー協議等の機会を活用し,引き続き両国の協力を進めていくことで一致し,その観点からエストニアに所在するNATOサイバー防衛協力センターへの日本の参加が承認されたことを歓迎しました。また,ラタス首相よりサイバー・ITのエストニア社会にとっての重要性について説明があり,サイバー分野の重要性につき意見交換を行いました。
(引用:http://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/we/ee/page4_003628.html


サイバーセキュリティ問題への対応のために協力していきたい旨が話し合われたようです。政府の電子化によってコスト削減、国民データの一元管理、サイバーセキュリティ問題への対応、テクノロジー教育による人材の育成など、様々な点で日本の先を行っているエストニアから学ぶことは急務かつ重要な問題なのでしょう。個人的には税金手続きの簡素化、役所手続きの簡素化を推進していって欲しいところです。福岡市の高島市長がエストニア行政の仕組みを実証実験できないかと動いているようなので、そちらも要注目です。エストニアが電子国家として発展した要素の一つとして、人口が130万人程度で政策を迅速に進めやすい人口規模であることもあると考えられますし、人口が154万人程度の福岡市においてどのような行政の仕組みが生まれていくのか楽しみです。


まとめ


ここまで、エストニアが電子国家となるに至った経緯を見てきましたが、資源もなく、社会インフラも整っておらず、埼玉県さいたま市程度の人口しか有していない小国の17年間の成長には、多くの見習うべき点があるような気がしてきます。


個人的にはぜひとも一度は訪れたい、もはや移住したい国です。実際にX-Rodeがどんな風に実装されてるのかとか、国をSaaS化しちゃったらWeb業界あるあるの技術的負債の蓄積が国レベルで起きないのかとか、現地のIT教育がどんな風に推進されているのかとか、どんな技術者がいるのかとか、行って知りたいことが多すぎて。。。


どこででも働ける状況になったら真っ先に滞在しようと思います!


最後に、今回の記事を書くにあたって参考とさせてもらった資料を載せておきます。詳しくはこちらを参照されると良いかと思います。


【参考】
<エストニアの歴史・電子国家の特徴>
https://www.visitestonia.com/
https://wired.jp/2013/10/25/e-estonia/
https://e-resident.gov.ee/
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000454.pdf
<電子IDカード、X-Roadの仕組み>
http://pubdocs.worldbank.org/en/165711456838073531/WDR16-BP-Estonian-eGov-ecosystem-Vassil.pdf
<エストニアのStartupサービス>
http://www.startupestonia.ee/startups


では!