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【書評】『世界はシステムで動く』解決しても問題が起き続ける複雑なシステムに対する処方箋


ドネラ・H・メドウズさんの『世界はシステムで動く ―― いま起きていることの本質をつかむ考え方』を読みました! t学生の時に友達が読んでいて「うわ!難しそうな本!」と思っていましたが、所属している組織の問題、関わっているプロダクトの仕組みのどこに問題があるのかを考える上で参考になるかなと思って読むことに。


結論としては自分の目的どおりの本だったようで、本書は以下のことを具体例を交えて明らかにする本でした。

「世界のあらゆる事象はシステムでできていて、問題が発生するような仕組み自体に不具合があるから表層的な問題に対処しても永遠に仕組みは改善されず、問題が起き続ける。じゃあどうやって仕組みの不具合を特定して仕組みを良い方向へ持っていくことができるのか?」


家庭問題、職場での人間関係、手がけている事業の問題、行政の問題などあらゆる解決策を試しても長期的に問題が解決していかずに困っている人向けに世界の事象がどのようなシステムになっていて、そのシステムをどのように理解し、どのようにいい方向に向かわせるか?を考える上でとても参考になるなと。


読んで印象に残った点

参考になった点をまとめておきます!!


システム全体の目的を理解していない状態で施策を打つと、想定と逆の反応が返ってくることがある。

本書では、1960年代のルーマニア政府の人口増加政策を例にとって想定と逆の効果を生んでしまったことを紹介していました。


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1967年、ルーマニア政府は「ルーマニアの人口を増やす必要がある。」と決め、そのための方法として45歳以下の中絶を非合法とすることを決めた。

結果として、中絶を非合法とした直後には出生率が3倍になった。しかし、出生率は徐々に低下し、以前の水準程度まで戻った。また、妊婦の死亡率が3倍になった。これは非合法での危険な中絶が行われるようになったから。

そもそもルーマニア国民が子供を産み・育てることができなかったのは彼ら彼女らが貧しかったから。子供を育てるだけの経済力がなくて中絶することになっていた。その経済問題を解決しないことには中絶と少子化は続く。


これは、若年層の家庭の経済状況、法規制、子育てに対する施策それぞれの事情が複雑に絡み合ったシステム全体のそれぞれの目的を明らかにする前に中絶の数だけを減らそうと表面的な解決策をとったために逆に事態が悪化した例となっている。


本書では、システム全体の目的を理解して施策を打って成功した例としてスウェーデンの事例も取り上げられていた。

スウェーデンは1930年に同じく人口減少に悩まされていたが、「家族の大きさではなく、子育ての質が重要である」という共通の目的に国民全体で合意し、性教育普及・困窮家族への支援などを施策として進めた。

結果として短期的な出生率は低迷したが、子供一人あたりの政策(子育て家庭へのサポートなど)が充実し、子供を産み育てたいという家庭が自然に増えていった。


...ルーマニア政府の失敗は、日常生活の中でもあらゆるところで起きている問題のような気がしますね。

システム全体の目的を理解せずに対処療法的な解決策を続けた結果、より深刻な他の問題が生まれてしまう。


スウェーデンの例から、システム全体の目的を理解してその目的を関係者全員で共通認識を持ち、足並みを揃えて問題に長期的に取り組んでいくことでしか、根本の問題を解決することはできないということがよくわかります。



問題に対処療法的に対処するのは麻薬のようなもの

人はなぜすぐに手を出せる対処療法に走ってしまうのか。その原因に関しても言及されていました。

その原因は、「楽に現実の認識を歪めることができるから」だと。


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(画像:みやぎ県政だよりバックナンバー(PDF版:平成19年4月~平成24年3月) - 宮城県公式ウェブサイト 2010年12月号 特集1


例えば、現状の貧困状態を直視したくないからコツコツ働くことをやめ、麻薬に手を出す。そうすると一時的に自分の認識をずらし幸福感を得ることができる。

しかし、その幸福感はすぐに消えてしまい、同じように認識をずらして幸福感を得るためにさらに多くの麻薬が必要になってしまう。

結果的に、短期的な問題解決により依存するようになって長期的な問題解決はさらに困難になっていく悪循環が続いていく...。


このように短期的な介入による悪循環を防ぐため、短期的な介入に頼るのではなく、システム自体の能力を再構築することを目的に徐々に改善させていくことが大事だとされていました。


「問題を直視せずにすぐに手を出せる解決策は、長期的にシステムの自己維持力を下げていく可能性が高い。」と。


システム思考で問題を認識して良い方向へ向かう

以下4つができるようになることがシステム思考であり、システム全体の目的を理解して問題をよい方向に進めていくために必要なことだとされていました。

①部分を理解する力を鍛える
②相互のつながりを見る
③将来的に可能性のある挙動について「もし〜なら、どうなるか?」という問いを発する
④創造的に勇敢にシステムを再設計する


①部分を理解する力を鍛える

システム全体だけではなく、部分の目的を理解する。先のルーマニアの例でいうと、「若年家庭はなぜ中絶をしてしまうのか?その目的はなんだろうか?」と若年家庭の目的と状況を正しく理解することがまずは必要。


②相互のつながりを見る

次に、システムに関わる各関係者間の目的がどのように絡み合っているかを理解することが必要。

先のルーマニアの例でいうと、若年家庭はどのような状況になっているか、彼らの親家庭はどのような暮らしをしているのか、彼らの所属している会社・組織はどのような賃金・雇用形態になっているのか...など、問題を生んでいるシステムの関係者それぞれの状況を洗い出して相互の関係性を明らかにしていかなければならない。

この手順は骨が折れる作業になるが、これをしないと対処療法的な問題解決策になってしまってより深刻な問題が生じてしまう危険性もある。


③将来的に可能性のある挙動について「もし〜なら、どうなるか?」という問いを発する

各関係者の目的と状況を洗い出すことができたら、今後どのような問題が生じうるか、それぞれの状況がどのように変われば、その当事者・他の関係者状況になるか?を仮説立てていく。

現在明らかになっている問題に対処するだけでは、将来発生する問題に後手な対応となってしまい、いつまでも問題を解決することができない。


④創造的に勇敢にシステムを再設計する

ここまででシステム全体と個々と相互の問題が明らかになり、今後どのような問題が起きうるかがわかった。ここでわかっただけで問題に言及するだけでは何も事態は好転しない。

各関係者の抱えている状況を理解した上で彼らの目的と全体の目的が適うように共通認識を持ち、優先度の高い問題から順次取り組んでいって問題のある状況を少しずつ改善していくこと。


長期的な解決先に取り組む際には最初は結果がそぐわないことが多いため、関係者相互の目的を揃えておくことが何よりも重要になる。すぐに効果が出ないことを継続して長期的な変化を目指してじっくりコツコツ取り組むことができるかどうかは、関係者が目的に対して納得しているかどうかによる。


これは料理でも同じで、簡単に美味しさを味わいたくて甘いフルーツにかぶりつくか、じっくりコトコト手間暇かけて旨味を引き出して料理するかによって、短期的に幸福感を得てすぐに渇望感に満たされるか、じんわりと幸せな気持ちが持続するかの違いが生まれる。


まとめ

以上、『世界はシステムで動く ―― いま起きていることの本質をつかむ考え方』の書評でした!

複雑なシステムを根本から解決するためには、関係者の抱えている問題を明らかにし、その問題の絡み合いを理解した上で関係者すべての利益となるように目的を探し続ける必要があり、一筋縄ではいかない。


そのような状況に対してどのように対処するべきで、どのような策は悪手なのかを具体例を交えてなるべくわかりやすく説明している良書でした。


では!